本文引用


■演説ではなく会話を。事前にすべてをコントロールしようとする発想をあきらめる!

 これまでのメディア環境においては、有権者(=生活者・消費者)に何かを訴えたい候補者(=企業)は、選挙カー(=メディア)に用意された演説の上で自社の商品やブランドについての「演説」を行っていればよかった。「演説」の中身・内容について吟味をする必要はあっても、演説という方法自体は有効だった。候補者同士が競っていたのは、演説する「声の大きさ」(=GRPといった露出ボリューム)だったり、聴衆の数を稼ぐための駅前ロータリー場所取り(=ゴールデンタイムのCM枠押さえ)というような状況だったのである。


 しかし、これまで説明してきたように、現代のメディア環境は、選挙期間中といえども、街を歩く聴衆がみな、スマホで好きなコンテンツを眺め、耳にはイヤフォンをさしているような状況である。ただ駅前に選挙カーを乗りつけて演説するだけでは、話を聞いてもらうことすらできない時代がやってきてしまったともいえるのだ。


 では、どうすればよいのだろうか?これからは、選挙カーから降り、有権者と同じフラットな地平に立って、「演説」ではなく、生身の人間同士としての「会話」をする姿勢を見せない限りは、有権者は耳に突っ込んだイヤフォンを取ろうとしないだろう。


 そして、有権者へ向かって一方的な「演説」を行うのではなく、一人の個人と個人として向き合い、心の通った「会話」をしようとするならばーそれは、事前に計画を立て、すべてを「コントロール」するという発想をあきらめるということを意味する。


 そもそも誰が、地の通った生身の人間との「会話」を事前にすべて計画し、コントロールすることなど、どだい無理な話なのだ。事前に意図した目的を持ってすべてがコントロールされ、組み立てられる会話というのは、たとえば警察官による職務質問や、営業マンによるセールストーク、裁判における尋問のようなものだ。いずれも通常の生活者の感覚からは、もっとも忌み嫌われるコミュニケーションの形態である。


 あなたが有権者だとしたら、演説で話す原稿内容から、演説会のスケジュールまですべてを事前に決めておいて、そのとおりにしか行動できないような候補者と、目の前にいる一人の候補者と、気持ちの入った会話を臨機応変に繰り広げ、話の盛り上がりや聴衆の集まり具合に応じて、話す内容や行動スケジュールも自在に組み替えられる候補者のどちらに魅力を感じるだろうか。答えは決まっているだろう。


(本田哲也/田端信太郎著『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』より P45~P47)


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感想


 昭和の時代に振り返ってみると、メディアといえば新聞・テレビ・ラジオといったマス・メディアだった。そこで広告枠を取り、繰り返しCMを流せば新商品の情報が伝わった。また、テレビの情報番組で商品を紹介すれば消費者はついていった。CMや情報番組は、本書では「CM」を「演説」と表現している。計画を経て、情報を一方的に流す「CM」を「演説」と表現しているのは的を得ていると思った。情報の流れが少ない分、マス・メディアの影響は大きいものがあった。面白い情報であれば、翌日、学校の教室や井戸端会議ですぐに話題となったものだ。


 しかし平成に入り、インターネットが普及し、ブログやSNSなどが発達したことも影響して情報の流入は多角化した。そのため、情報の受け手は多くの情報を受けることになり、自ら情報を選択する必要に迫られた。そのような状況において選択するのは、やはり「信頼する身近な人」からの「会話」に似た情報である。


 僕も現在は必要な情報をFacebookから得ている。嗜好などが似ていることもあるのだろうか?友だちの投稿を眺めていると、ピンとくる情報が多く入る。ブログのネタとなる情報もFacebookから得ることが多い。リーチの数はマス・メディアに比べると少ないかもしれないが、嗜好が似た者同士ということもあってか、眺めている人にとっては角度の高い情報が得られる。そういう意味では、SNSは「身近な分だけターゲティング精度の高いメディア」と言える。


 我々はSNSをはじめとした「オウンド・メディア」と呼ばれる自分のメディアを手にしている。自分のメディアを使って身近な人に振り向いてもらえるためには「演説」ではなく「会話」が必要ということを、先に紹介した文章には書かれている。そして、そのことを第1章で意識させた上で、第2章で「人はなぜ動くのか?」という論点に移っている。


というわけで、明日は「人がなぜ動くのか?」ということについて、本文を紹介しながら考えてみたい。



目次

 PART1 「たくさんの人に見てもらえるほどよい」は本当か?
 PART2 なぜ、人は「動く」のか?-1000人から10億人まで、スケールごとに考える
 PART3 「人を動かす」ことをあきらめない


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