ITILという言葉を聞いたことがありますか?
ITILはイギリス政府が策定したコンピュータのシステム運用・管理業務に関するベストプラクティス集です。
ITのシステム運用に携わる者でなければなかなか聞く機会のないITILという言葉ですが、その内容はITに限らず、幅広い業務で活用できます。
本書『新米主任 ITIL使ってチーム改善します!』は、通信販売部というコールセンターを業務とする部署を舞台とし、主人公の友原京子が問題だらけの業務を改善するというストーリーとなっております。
本書で紹介している業務改善のコツとは何なのか?
ITILで記載されている以下の4つのプロセスのポイントを記載しながら、本書のエッセンスを以下に紹介します。
・サービスレベル管理
・インシデント管理
・問題管理
・ナレッジ管理
目次
- サービスレベル管理
- インシデント管理
- 問題管理
- ナレッジ管理
- 最後に
サービスレベル管理
日ごろ、何をどこまで頑張ればいいですか?
サービスレベルとは、「業務の品質目標・スピード・生産性目標・前提条件などを、享受者(顧客など)と運営者が合意したもの」(本書 P84より)です。
本書の舞台であるコールセンター部門(通信販売部)では、以下の目標をサービスレベルとして定義しております。
・ オペレーションミス:0件
・電話対応の一次完結率:80%
・注文を受けてから発送までのリードタイム:半日以内
・リードタイム遵守率:90%
なお、サービスレベルの概要は以下の通りです。
・サービスレベルとは
「業務の品質目標・スピード・生産性目標・前提条件などを、享受者(顧客など)と運営者が合意したもの」
・サービスレベル管理とは
「合意したサービスレベル目標を達成できるようにするための活動」
・サービスレベル管理のポイント
①サービスレベル目標の設定
②現状の把握
③測定と報告
(沢渡あまね著『新米主任 ITIL使ってチーム改善します! 』 より P84~P86)
インシデント管理
トラブルが発生したら、まずは迅速に対応する
トラブルやクレームなど、業務の運営を阻害するものごとをITILではインシデントと呼びます。
インシデントが発生したら以下のポイントで迅速に対応し、業務を正常な状態に回復することが必要となります。
・インシデントとは
「標準の業務(サービス)に属さない、業務(サービス)品質を阻害あるいは低下させる(もしくは低下させるかもしれない)イベント。トラブル、クレーム、問い合わせ、改善提案など」
・インシデント管理とは
「インシデントの発生を検知し、インシデントが発生したときに可能な限り迅速に正常な業務(サービス)に回復させるための活動」
・インシデント管理の活動
①インシデントの識別
②インシデントの記録
③インシデントのカテゴリ化
④インシデントの優先度づけ
⑤インシデントの初期診断
⑥エスカレーション
⑦調査と診断
⑧解決と復旧
⑨インシデントのクローズ
(沢渡あまね著『新米主任 ITIL使ってチーム改善します! 』 より P110~P114)
問題管理
根本解決と再発防止が目的
問題管理は、問題が発生したときの根本解決と再発防止を行うことを目的としております。
問題管理は先ほど紹介したインシデント管理と似ていますが、目指すところに違いがあります。
インシデント管理は、トラブルが発生したときに「まずは業務の正常回復を目指す」ことを目的としております。そのため、暫定対応という言い方をする場合があります。
しかし、問題管理は問題が発生した原因の根本解決と再発防止を目的としております。そのため、本格対応という言い方をする場合があります。問題管理の対応は、日数がかかるケースが大半です。
以下にポイントをまとめます。
・問題とは
「1つまたは複数のインシデントを引き起こす未知の根本原因」
・問題管理とは
「インシデントの根本原因を特定し解決する、またはインシデントの発生を予測して予防するための一連の活動です。
インシデント管理が迅速性を求められるのに対し、問題管理では根本原因をじっくり調査し、時に関係者との調整を重ねて解決します(もちろん迅速であるに越したことはありませんが)」(沢渡あまね著『新米主任 ITIL使ってチーム改善します! 』 より P145~P148)
・問題管理の活動
①問題の識別
②問題の記録
③問題の優先度づけ
④問題の調査と診断
⑤ワークアラウンドの実施
⑥問題の記録(既知情報化)
⑦変更要求
⑧問題の解決
⑨問題のクローズ
ナレッジ管理
みんなで知識の共有を!
ナレッジ管理とは、個人が業務で得た知識やノウハウをみんなで使えるように整理・管理するプロセスです。
みんなで知識やノウハウを活用できるように、業務手順書をまとめたり、Q&Aとしてまとめたり、勉強会を開いたりするなどの活動です。
知識やノウハウをみんなで共有できたら、業務もスムーズに進みますよね?
・ナレッジ管理とは
「ナレッジ管理の目的は、業務を運営する個人個人が持っている知識やノウハウを共有し、参照~活用できるようにすることです。
属人化を防ぎ、課題解決のスピードや質を高め、業務品質をより良くするために重要な取り組みです。
ITILではナレッジデータベースを作ることを強調していますが、それ以上に個人が日々の業務の中で知識やノウハウを披露しあい、交換しあい、活用しあうコミュニケーションのきっかけや場をつくって回すことこそが大事です」
・ナレッジ管理のポイント
①ナレッジデータベースの作成と活用
②「場」の創造
(沢渡あまね著『新米主任 ITIL使ってチーム改善します! 』 より P145~P148)
最後に
冒頭でも紹介の通り、本書は通信販売部という問題だらけのコールセンターを、主人公の友原京子が業務を改善するという物語です。
以下のように、ここで登場する問題は、IT以外の職場でも発生するような問題ではないでしょうか?
- 業務の共有がなされておらず、対応した人が休んでしまうと業務が回らない
- 突然の割り込み作業の対応に追われてしまう
- 問い合わせの記録がされておらず、放置状態となってしまった
etc......
ITILを活用するメリットは、このような業務においても"改善"を行うためのプロセスがナレッジとして体系化されていることにあります。
問題が発生したときの対応の仕方は、意外なほど、その対応の仕方についてはノウハウが集積されておりません。このため、問題が発生したときに右往左往してしまうことも往々にしてよくあることです。
しかし、ITILのような知識体系をノウハウとして知っておくことで、"対応の引き出し"が増えるわけです。
本書は、先に紹介した実際にありがちなトラブルや問題に対して、どのように対応していくのか?を描いたものです。そのため、物語を読んでいくうちに、「ああ!この問題はよくあるよな~!」「この問題に対しては、このように対応すればよいのか!」など、気付きもたくさんあるはずです。
本書は、
業務改善の担当はもちろんですが、むしろ若いリーダーにこそおすすめしたい本です。若いリーダーにとって、問題にいかに対応するかが今後の業務を担う上で、大きな分岐点になるとなるはずです。本書の書かれているノウハウを身につけることが、今後のビジネスパーソンとしての活躍のための土台となるものと思っております。
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